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11です。

こんにちは。

☆もう7月ですね。
キッチンマット、まだ編み上がっていないという現実が辛い。でも、残すところ縁編みだけなんだ……!
これ、いつから編んでいたのかももう思い出せない。
 

★華神11です。
(華神の詳細は6/8の記事をご覧ください)

★華神戯譚【霞の世の邂逅編11・end】

 足を庇いながら這って部屋を出る。それから、外に面した板縁へ。
「真っ暗だ」
 外はもう夜だった。墨で描いたような真っ黒い輪郭の木々の上に、見事な金の月。無数の星々。
 この世界は不思議なことにとても星の輝きが強い。満月時も、かすむどころか星は対抗するようにさらに強く輝く。なんでだろう。
 板縁から降りようとして、私は困惑した。沓がない。それにこの建物、どうも人の集落内にあるって気がしない。隠者のように人里離れた山の奥にぽつりと一軒だけ建てられている雰囲気だ。
「わけわかんない……」
 この屋敷ってきっと、罠にかかっていたときに会った男性の住処だよね?
 まさか山賊だったとか?
 ぞっとし、私は座ったまま腰を引きずるようにして板縁の短い段を降りた。地面は、素足に少しひんやりと感じられた。
「いたっ、駄目だ、立つのが精一杯かもしれない」
 少し体重をかけただけで、負傷した足首がずきっと響く。杖でもないと、到底歩けそうになかった。
「ぬまごえ様のところに帰りたい……っ」
 動けない自分が情けなくて、ぎゅっと瞼を閉ざして俯いたときだ。
「まったくのう、心配させおって。探したぞ、娘よ」
 突然、求めていた声が頭の上に降ってきた。
「——え?」
 この声って、ぬまごえ様!?
 がばりと顔を上げると同時に、硬い物で軽く額を叩かれた。たぶん、閉じた扇だ。
「どこをほつき歩いているかと思いきや……人間と密通していたとは」
 不機嫌そうな声。私は忙しなく目を瞬かせ、声の主を見つめた。
 死にそうだった私を拾って娘にしてくれた、優しい沼神がいた。
「ぬまごえ様」
「ふぬう、父様と呼べ。親不孝者め」
 見た目はむしろ、兄というほうが合っている。しっとり妖艶系な美青年だからだ。長い黒髪をくるりとまとめて簪でとめている。
「お父様……迎えに来てくれたの?」
 まさか捜しにきてくれるとは思わなかった。嬉しいやら安堵するやらで、胸が詰まった。
 偉そうに腕を組んでいたぬまごえ様が、泣きそうな私を見てふと困った顔をした。
「散策ついでにどこぞの神につかまって賭け事に興じているのかと思っていたら、まさか人間の屋敷に……ふむ? なにか匂うぞ。ワレ、もしや血を流したか?」
 私は慌てて衣の裾で自分の足首を隠した。するとぬまごえ様は怪訝そうに、閉じた扇の先で私の頭をつんとつついた。
「なにがあった?」
「……朝の散歩をしながら草を摘んでいたんだよ。でも地面に誰かが狩猟用の罠を仕掛けていたみたい。私、それに足を挟まれて動けなくなったんだ。そしたら、人間の男性が現れて、それで」
「怪我をしたのか」
 ぬまごえ様が表情を険しくさせ、私の全身にすばやく視線を走らせた。眉間によった皺がさらに深くなる。
 吐息を落とした次の瞬間、ぬまごえ様の姿が変化した。人型バージョンをほどいて、本来の巨大ナマズのような姿に戻る。
「帰るぞ、知夏」
 ぬまごえ様は怒った声でそう言うと、ロープめいた太い髭をふよふよと動かして私の腰に巻き付けた。そして自分の頭にひょいっと乗せる。
「ぬぅ、人間め。少々痛い目に遭わせてやらねば……」
 ぬまごえ様は、ぶつぶつと呟きながら身体の向きを変えた。
 私は心から安心した。ぬまごえ様が迎えに来てくれた。もうなにも怖くない。
 恐怖や緊張が去ると、次に気になったのは、私の足首を手当てしてくれた男性のことだった。親切な人、だったんだろうか?
 屋敷を振り向いたとき、ちょうど、がたっと音がした。
「あっ」
 今しがた脳裏に描いた男性が、慌ただしく板縁へと飛び出してきた。
「娘!」
 彼はまず、巨大ナマズなぬまごえ様に驚き、その頭に乗っている私を見て大声を上げた。
 ヌソッヌソッと木々のほうへ進んでいたぬまごえ様が胡乱な目をし、身体ごと振り向いた。
「ぬぅ?」
「どこの妖だ? いや、怪し気配はない。しかしなぜ俺の屋敷からその娘を攫う?」
 男性は裸足のまま地面に降りて、ぬまごえ様を睨みつけた。
 私がぬまごえ様に誘拐されそうだと、彼は大きく勘違いしているようだった。寝間に私の姿が見えず、慌てて屋敷から出て来たといった雰囲気。
 ——私を守ろうとしてくれている? それとも、せっかく売り飛ばして小銭に変えようとしていた娘を攫われて、腹を立ててる?
 人間不信に陥っている私は、すぐに彼の善意を認めることができなかった。でも、ぬまごえ様と向き合う男性を見ているうち、そんな歪んだ考えを持ってしまった自分がなんだかとても恥ずかしくなってくる。月明かりの下、彼は一振りの剣のように鋭く、凛としていたからだ。
「ワレが地に罠を仕掛けた男か?」
「——なんだと?」
「痴れ者め、わしの娘が怪我を負ったではないか。動けぬ娘を攫ってどうするつもりだった?」
「……『わしの娘』?」
 男性が驚いたように目を瞬かせ、私とぬまごえ様を見比べる。
「憎しや、男。必ず報いを与えようぞ」
 ぬまごえ様は、ひれをそよがせて怒りを見せた。
「違うよ、お父様。この人、罠を仕掛けた人間じゃない。怪我をした私を助けて、手当てしてくれた」
 正直、この人が罠を仕掛けた張本人なのかどうかは、わかっていない。でも違うって言わないと、ぬまごえ様は厳しく彼を罰しそうだった。
「ふぬぅ?」
 慌てて事情を説明すると、頭に乗っている私をうかがうようにして、ぬまごえ様はぽりぽりとひれで頬をかいた。
「これ知夏、人間の男などたやすく信用するでないわ。……男、娘の言が正しいなら、のちに幸事(さちのごと)をくれてやろう。だが、違うのなら覚悟しておけい」
 ぬまごえ様は冷たくそう言うと、男性に背を向け、ヌソッヌソッと再び木々のほうへ歩き出した。
 私は振り向き、硬直している男性に小さく頭を下げた。


【霞の世の邂逅編・end】
※ここで邂逅編は終わります。名前を出せてませんでしたが、知夏を助けたのは胡汀です。
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