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6です。

2013年06月16日
★華神6です。
(華神の詳細については6/8の記事を)
★華神戯譚【霞の世の邂逅編6】

 自分の血で真っ赤に染まった下沓を眺めているうち、目がまわってきた。
 私の帰りが遅いことを不審に思って、案外過保護なぬまごえ様が捜しに来てくれるかもしれない。
 でも、その前に、罠を仕掛けた猟師に見つけられたら。
 それに、私の足、どうなるんだろう。この傷、治るの?
 蒸槻国の治療法についてはまだよくわかっていない。基本的に民間療法なんじゃないだろうか。
「どうやったら、私がここにいることをぬまごえ様に気づいてもらえる……?」
 痛みと焦りでうまく頭が働かない。
 もう一回罠を外そうと試みるも、失敗。わずかな衝撃でさえ足首に激痛が走り、呼吸が乱れる。アキレス腱は無事のようだけれど、もしかして骨に当たってるんじゃない? 
 考えるだけで恐ろしい。
 絶望的な気分で周囲を力なく見回したときだった。
 誰かの足音が聞こえ、身体が強張った。ざくざくと野草を踏む、その音。私は身を縮め、目を瞑った。
 人間が怖い。近づいてほしくない。
 祈りも虚しく、足音が近づいてきた。それがふいに、一度とまる。ああ、見つかったんだ。目を閉じたままでも、気配でわかる。私を発見して、驚いているんだろう。
 再び近づく足音と衣擦れの音。
 私の目の前で、その人が身を屈めたみたい?
「——」
 猟師? 近隣の集落の人?
 私は精一杯身を小さくし、俯いた。どうしよう、ぬまごえ様。帰りたいよ。怖いよ!
 恐ろしさで身体が震えた。きつく閉ざした目の端から涙がにじみ、頬を伝う。
「——罠にかかってしまったのか?」
 若い、男の人の声だった。戸惑っているような。悪意のない、穏やかな響きだ。でも私は内心、失望していた。若い男が一番怖い。優しいおじいさんだったらよかったのに。声だけ若い……ってことはない?
「口をきけるか?」
 気遣いを含んだ優しい声に、私は観念してゆっくりと瞼を開いた。ますます失望感が募る。おじいさんじゃなく、やっぱり若い男性だった。とはいえ、どうも猟師や農民とも違うみたい。神職にでもついてそうな、不思議な雰囲気だ。片方の目尻に刺青をさしているからかもしれない。この世界ではちょっと珍しい、藍色の瞳。髪も似た色。フック型の華やかな耳飾りを下げている。衣も、平民とは違う整ったものだった。少なくとも私が以前見た、猟師の格好とは異なる。
 この異世界、人間界では身分差が激しいって神様方から聞いた。するとこの男性は身分が高い人なのかもしれなかった。
 私はもっと落ち込んだ。高位の男は、無冠の女性に対する扱いがひどいという。
 神様方から日々、教訓のように人間たちの悪行三昧な話を聞かされている。もしも偶然出会ったときは十分注意するようにとも。今の私にとって、人が恐れる妖よりも、人自身のほうがなにより恐ろしい存在だった。
 
つづく
(※神様ズ、日頃の人間たちに対する不満を知夏につい聞かせてしまってます。神様ズの予想以上に、真に受けて怯える知夏です。まだ気持ちに余裕がなく、異世界に対して警戒心バリバリ状態なので……という設定な華神です。ここまでの流れは微妙にシリアス調ですが、のほほんライフな内容です)
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