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5です。

2013年06月15日
◎華神5です。
(華神とはなんぞや?と思われました方は、6/8の記事をご覧ください)
★華神戯譚【霞の世の邂逅編5】

 足首にがっちりと罠の歯が食い込み、下沓に赤い色が広がり始めた。
 痛みに、息が詰まる。腹部から胸にかけて、ぐうっと熱の塊に突き上げられるような、吐き気を伴う痺れた感覚を味わう。
 両手で必死に罠の歯を引き剥がそうとするけれど、だめ。びくともしない。鉄製のそれは随分錆びていて、触れるとざらざらしていた。手のひらに付着した錆の屑は酸っぱいような嫌な臭いを放っており、口内に唾液を溢れさせる。
「痛いっ……!」
 いっそ罠をつけたまま住処に帰ろうかと思ったけれど、それも無理だとすぐにわかった。罠の楔は地面に深く食い込んでいる。私の力だけじゃ引き抜けそうにない。
 痛みと焦りで、全身に冷や汗がにじんだ。
 この罠を仕掛けたのは猟師は誰だろう。会うのが恐ろしい。獣のかわりに私が罠にかかっていると知っても、普通に助けてくれるなんて思えないからだ。
 この世界に来てから、私はすっかり人間嫌いになっている。——私自身も人間だけれども。
 ぬまごえ様に拾われる前、猟師らしき男と出会い、助けを求めたことがある。でも、猟師は当時の私の格好——コートと制服——を見て怪しみ、身ぐるみをはがそうとした。調べた結果、ただの娘だったら暴行しようという意図がありありと伝わってきた。
 命からがら逃げ出して、その後、空腹と疲労に負けて動けなくなり、これからどうしていいかわからず茫然としているところをぬまごえ様に救われた。
 親しくなった神様たちも、人間は恐ろしいってよく言っている。
 だから、この世界の人間と関わりたくはなかった。


つづく
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