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こんにちは

★こんにちは。

恋と悪魔と黙示録3巻発売記念ということで、恒例(?)の短編を書いてみました。
のほほん系のネタです。3巻をお読みでないとわからぬ内容かと思います。
読んじゃうよ〜と思ってくださった方は、折り畳んでいる記事をクリック。

★メールくださった方々、ありがとうございます。
新刊のご感想、とても嬉しいです!テレル…


こっそり一部にプチレス
・ミトン本の誘惑ー! 今月というか来月のお小遣い前倒しで手に入ったのにもう私のライフゼロ…!なのにカラフル本とか新たな誘惑がry

・冬が近いし、全裸待機は風邪をひいてしまうから、ちゃんとこれを着てください…! 
 つ【靴下】


★日常の話。

・編もうと思っていたアラン帽子が、手持ちの糸とどうしても合わない。どうしようかな。
スヌード、完成までの道のりはまだ遠いなー。



(黙示録file.1 消えた木苺)

 ある穏やかな午後、事件は起きた。
 場所は、レジナの住居である屋敷の食堂だ。そこのテーブルに、屋敷の主たるレジナ、獣姿のアガル、なぜかいる鳩、遊びに来ていたヴィネト、黒兎のバレクがつめかけ、各々深刻な表情を浮かべている。
 重い沈黙を破って最初に口を開いたのはヴィネトだった。
「——ほら、お嬢さんに謝れ」
 そう厳しく命じた彼の視線は、テーブルの上に置かれている木苺の鉢に向けられている。
「ほら……バレク。ちゃんと謝るんだ」
 ヴィネトが再び催促した。
「……」
 全員の視線が、鉢の横に座っている黒兎バレクに集中した。
 名指しされたバレクはしかし、返事をせず、もみゅりと意固地にうずくまっている。
「……」
 全員の視線が、バレクから木苺の鉢に映った。
 先刻までたっぷりと実っていたはずの木苺は——見事に全部、枝から消えていた。
「……」
 全員の視線が、バレクに戻った。
「こらバレク、おまえってやつは! 食べたんだろ木苺! 犯人はおまえしかいない!」
 業を煮やしたヴィネトが声を張り上げ、頑なに丸まっているバレクの耳を乱暴に引っ掴んだ。
 バレクが抗議するように、きゅい、と鳴く。
「あのなあ、この苗はお嬢さんがロアス殿下からもらってきたものなんだぞ。普通はこの季節に実を付けない。それを殿下お抱えの魔術師がだな、植物の生長を促す術で実らせたんだ。勝手に食べやがって……」
 ヴィネトは舌打ちまじりに、バレクを揺すった。
 バレクは目を潤ませ、きゅ……と小さく鳴いた。その、か弱い仕草にレジナは胸を痛ませた。
「あの、卿。わたし怒っていないから、もうその辺で」
「いっけませんよお嬢さん! 人様のものを勝手に食べたんですからね、ここは厳しく躾せねば」
「で、でもバレク、木苺が大好きなんだよね? それでつい食べちゃったんだよね?」
 庇うつもりで微笑むと、先ほどまでのか弱い様子はどこへやら、バレクは嫌そうにレジナをきつく睨んだ。
 急変したその態度を仮に言葉に変換するなら、こうだろうか。『うるさい、小娘。至高の方たるヴィネト様に気安く口を聞くな』
 ——神魔って、本当に自分の主以外には懐かないんだなあ。
 胸中で感心するレジナとは逆に、ヴィネトはさらに怒りを増やし、バレクを激しく揺すった。
「おまえ、俺に叱られたから落ち込んでいるだけで、全然反省していないだろう!」
 分が悪いと考えたのだろうか、バレクは突如寝た振りをした。
 神妙にやりとりを見守っていたアガルと鳩は、既に飽きた様子でそっぽを向いている。
「……バレク。お嬢さんに謝罪しないと、もう肩に乗せてやらないぞ」
 ヴィネトの低い脅しに、バレクがびくっと目を開けた。
「寝台にも入れてやらないからな」
 バレクの赤い目が限界まで開かれた。
 というより、ヴィネトもこの神魔を自分の寝台に乗せて一緒に眠っていたのか。レジナは黒兎を抱えて眠るヴィネトの姿を想像し、吹き出しそうになった。なんだかんだで、彼も自分同様に、神魔に弱いのだ。
「もう撫でてやらん」
 バレクの目が一気に潤んだ。きっとバレクにとってその言葉は、死刑宣告に等しい脅しなのだろう。おろおろと耳を揺らし、ヴィネトの手にすり寄る。それをヴィネトは冷たく押しのけた。
 バレクはひどく傷ついた様子でヴィネトを見つめた。
 ——か、かわいそう。バレク、涙目になってる。
 レジナは固唾をのんで見守った。
 しばらくののち、このままではヴィネトに許してもらえないと悟ったバレクが根負けしたように力なく耳を垂らした。重い動きでレジナのほうに近づき、ふーーー……、とやけに人間臭い億劫そうな溜息を落とす。
 それから、もう嫌で嫌でたまらないという態度を隠しもせず、バレクは前脚の先を、ちょん、とレジナの手にくっつけた。
 その行動を言葉に変換するなら、こうだろうか。『……………早く許せ、小娘が。おまえのせいで、地上の輝ける星たるヴィネト様に叱られた』
「おいバレク、それが人に謝る態度か?」
 ヴィネトのえらく低い声に、バレクが再びびくっとした。
 早く許せ、この! と訴えるようにバレクが前脚の先で何度もレジナの手をつつく。
 レジナは微笑み、頷いた。元々怒ってはいないのだ。
「……すみませんね、お嬢さん。殿下からの贈り物を台無しにしてしまって」
 ヴィネトが吐息まじりに告げた。
「ううん、いいの。気にしないで」
「でも殿下からもらったとき、あんなに喜んでいたじゃないですか」
「あのね、元々この木苺は、バレクにあげようと思ってたんだ」
 レジナの本音に、ヴィネトはきょとんとした。
「マチェラ姫の離宮にいたとき、バレクは木苺を美味しそうに食べていたでしょう? きっと好物なんだろうなって。それで、苗をわけてもらって、ネクシャベルトに戻ってから木苺のパイを作ろうと思ったの。そのまま食べてもいいだろうけれど、ジャムにしたら色々なお菓子が作れるし——……えっ、バレク!?」
 バレクが突然、ひしっとレジナの腕にはりついた。
 赤い瞳が期待できらきらしている。
 木苺ジャムの菓子を食べたいらしいというのは、わかった。しかし。
「……おまえが木苺、全部食べたんだろうに」
 呆れ声で事実を告げたヴィネトへ、バレクが珍しく、非常に珍しく、反発の目を向けた。すぐにレジナに向き直り、きらきらと輝く目をする。
「……えっと……ごめんね、バレク。木苺がないと、ジャムは作れない」
 レジナは困った。バレクが腕にはりついて離れない。どうしても食べたいらしい。
 見かねたアガルがバレクの耳を咥えて引き剥がそうとするも、無理だった。
「あ、葡萄ジャムならあるよ。それで焼き菓子を作ろうか」
 思いついて、提案してみると、バレクは赤い瞳をさらに輝かせてレジナを見つめた。かわいらしいむく毛の黒兎を撫でたい衝動に駆られるが、主人以外の過度な接触は神魔にとって非礼となり——……
 ——あっ、でも今ならきっと、撫で回しても怒られないんじゃ!?
 レジナは、はっと気がついた。
 ——いける、今なら、絶対いける……っ!
 ごくっと息を呑んだあと、レジナはきわめて自然な手つきで実行に移した。
 予想した通り、撫でてもバレクは怒らなかった。むくむくだ。指が、毛の中に埋まる…! レジナは恍惚とした。アガルの毛並みも無論素晴らしいが、バレクのつやつやくるくるな黒毛もなかなかのものだった。
「……」
 ふと、脇から腕が伸びてきて、大人しく撫でられているバレクを攫っていった。
「あ」
 腕の持ち主はヴィネトだ。ちょっと機嫌の悪そうな顔でバレクを持ち直し、自分の肩にもみゅりと乗せる。
「……」
「……」
「……ちょっとお嬢さん、ナニその目」
 レジナは微笑んだ。
 日頃は投げたり潰したり耳を掴んだりと粗雑な扱いをしているが、やっぱりヴィネトは自分の神魔を大事にしている。
 ——バレクがわたしに懐きそうだったから、卿、拗ねたんだよね。
 笑みを深めるレジナに、ヴィネトは少し気まずげに眉をひそめ、そっぽを向いた。
 
 
 しかしレジナはこのとき気づいていなかった。
 アガルが「ぼく以外の毛並みに惹かれるなんて……レジナの兎たらし……!」という怒りの目で見ていた事に。
 新たな事件五秒前だった。


(終わる)





★オマケの小ネタ
<妻が帰ってきてくれない>

※登場人物:レジナ、ロアス、ドラーム(恋と悪魔と黙示録3巻をお読みでないと、人物がわからないかと思います)


 マチェラ姫の夫たるドラーム将軍が、青い泉を見つめつつどこか寂しげに溜息をついていた。
 その姿に気づいたレジナは、隣を歩く獣姿のアガルとともに、そっと彼のそばに近づいて声をかけた。
「将軍、どうされたんですか?」
「……ああ、レジナ嬢」
 ドラームが憂いを帯びた瞳をこちらに向け、小さく吐息を落とす。
 どこか力のない様子に、レジナはどきっとした。まさか、またマチェラ姫と仲違いをしたのだろうか。
「マチェラ姫とご一緒ではないんですか?」
「……………」
 ドラームの表情があからさまに曇った。
「将軍?」
「……。妻を喜ばせようと考えて先ほど、偶然手に入った希少本を贈ったのだよ」
「えっ!?」
「喜んでもらえたのはいいのだが、妻は貪るように読みふけり……話しかけても返事をしてくれぬ」
「……っ」
「それどころか、邪魔と言わんばかりに私を追い払った。レジナ嬢、どうすれば妻を書の世界から引き剥がせ…………レジナ嬢?」
「どっ、どういう内容の希少本ですか!」
「詩歌王ローチの初期本で……レジナ嬢?」
「初期本!? マチェラ姫はどこに!?」
「………離宮の私室に……レジナ嬢!?」
 全速力で離宮に駆けていくレジナの背と赤い獣を、ドラームは茫然と見送った。

 ★

 少し前に遡る。
 泉のそばにある亭で談笑していたロアスとヴィネトは、ふと興味深い光景を発見した。
 レジナとドラームという珍しい組み合わせの二人が、泉の手前で会話をしている。
 ヴィネトはこのとき、暢気にこう考えていた。お嬢さんはいつも地味な格好をしているなあ、若い娘らしくもっと着飾ればいいのに……と。
 ロアスも、またのんびりとこう考えていた。レジナ嬢はマチェラとよき友になれるだろう。このまま帰国させるのは惜しい。なにか手を打って我が国にとどめようか、と。
 そんな二人の視線の先で、突然、レジナが血相を変え、どこかへと駆け去った。
 ロアスとヴィネトは顔を見合わせた。
 なにが起きたのか。
 まさかと思うが、ドラームが彼女によからぬ言葉でも投げつけたのか。
 二人は顔をしかめ、泉のそばに取り残されたドラームのそばへと近づいた。
「ドラーム」
 ロアスの呼びかけに、ドラームが、はっと振り向く。
「お嬢さんが今、すごい勢いで駆け去っていきましたが、なにがあったんですかね?」
 ヴィネトの質問に、ドラームは目を瞬かせた。
「……いや、私にもなにがあったのか、よくわからないが……。ただ、私の妻が希少本に夢中で相手をしてくれぬ、という他愛ない悩みをついレジナ嬢にこぼしてしまったのだが、なぜ彼女は突然走り出したのだろう」
「……」
「……」
 ロアスとヴィネトは顔を引きつらせた。
 二人が胸中で考えたことは、奇しくも同じだった。
『なぜもなにも、それは彼女がドラームの妻と同じ感性の娘だからだ』。


(おわる)
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