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花術師小ネタ

2012年04月23日
スカイツリー型のサングラスと、ひげ選手権にちょっぴり惹かれつつ、こんにちは。

★メールくださった方々、ありがとうございます。
買ったよ〜、注文したよ〜、というお言葉、照れます。ありがとうございました。
初本なので、驚くことから嬉しいことからいっぱいです。


・出産おめでとうございます!お子さんたち、毎日元気に幸せに過ごされますようにー!



それで、花術師発売ということで、記念の小ネタを書いてみました。
他愛のない一幕という感じで。微コメディ&シリアスな内容です。
師弟を書くのがとても好きです。
それにしても新PCのキーボードにまだ慣れていないため、打ちにくい。時間かかるよー。いい椅子がほしいなー。
★花術師mix

●(まじゅつし、ふたり)……※師弟なジャヴとリスカ。
注:これは、内容は軽いコメディですが、書籍だけをお読みの方には、二人の関係(立ち位置)に、ちと違和感を抱かれると思います。サイトにアップしている『花下凍土』までお読みの方向けです。


 ジャヴとともに、賑やかな町の通りを歩いていたときのことだ。
 書物や織布の店、食堂、装飾品、武具店などがずらりと並ぶこの通り、冷やかしにのぞくだけでも楽しめる。
 明るい日差しの下ということもあって、気持ちが浮き立つ。
 ふいにジャヴが、とある店の前で足を止めた。
「ジャヴ?」
 彼の視線を追うと、そこには色とりどりの鮮やかな花弁を広げる花屋があった。店先にまで溢れ返るくらい、多種の切り花が売り出されている。……リスカの店よりもずっと種類が多い。負けた。
 一応同業種だ。リスカは敗北感と羨望と妬みなどを覚え、なにやら切なくなった。
 ジャヴに倣って見つめているあいだに、一人の女性が店のなかから姿を現した。切り花を大量に抱えているところを見ると、どうやら彼女が店主であるらしい。店先に置かれている段式の台に、見栄えよく切り花を飾り始める。
「弟子よ、おいで」
 ジャヴが突然、リスカの手を取り、すたすたと花屋へ近づいた。
「えっ?」
「花を買ってあげる」
 リスカは目をぱちくりとさせた。
「君は、花の術師だろう」
 という生真面目な顔のジャヴの言葉に、リスカは「ははあ」と深く得心した。そうか、花術師のリスカのために花を購ってやろう、という心理が生まれた模様。なにせリスカは、花がなければ魔術を使えない魔術師だ。
 リスカとジャヴの登場に、店主の女性が「あ、客が来た」という嬉しそうな笑顔を見せた。彼女の視線がジャヴをとらえたとき、ほう…っと、うっとりしたものになる。
 わかります、見とれてしまうその気持ち。私の師は、本当に容姿だけは文句なしに素晴らしいんですよね、ただし中身は皮肉の権化、かなり我が儘で高慢で意地悪なんですけれどね、などとリスカは内心でぶつぶつと告げた。口に出した場合、間違いなく師に悪辣な仕置きをされるため、心の中だけにとどめておく。
「どの花がいい? 好きなのを買ってあげる」
 どの花が魔術に適しているか、こればかりは上位魔術師であってもわからないのだろう。しかし、リスカ自身も、たとえば治癒系などといった定番使用の花以外、どれが魔術の受け皿となりえるか、すぐにはぱっと判別できないのだ。
「ええと……」
 どれにしようか迷っていると、ジャヴが赤い花を指差した。
「あの花は?」
「……あ、あれはモレ。確か、以前、使ったことが…」
「じゃあ、買ってあげよう。あの、黄色の花は?」
「え?」
「ほら、花びらが丸いやつ」
「あ、初めて見る花かも…」
「ふうん。買ってあげる。あの紫の花は、どう?」
「あっ、あの花、貴種なんですよね、王都でも手に入れるのが難しくて」
「買ってあげる。あちらの花は?」
「わ、あれも初めて見る花です」
「じゃあ、それも買う」
 と、ジャヴがてきぱき、店主の女性に花をごっそり押し付けていく。店主はぽかーんとリスカたちのやりとりを見ていた。いや本当、元貴族で財産たっぷりの太っ腹な師を持てて私は幸福ですね、ええ、とリスカは実に狡猾、図々しい考えを抱き、表面上は謙虚な微笑を浮かべた。
「ありがとうございます。私は果報者ですね」
 言外に『こんなに弟子思いな師を持てて嬉しい』とほのめかせば、師弟愛至上のジャヴは、いたく心をくすぐられたらしく、平静を取り繕いつつも「さあ、他には? なんでも買ってあげよう」とさらなる太っ腹ぶりを見せてくれた。リスカはほくそ笑み…………いや、慎ましやかな笑みを作った。
「でも、いいのですか、こんなに?」
「当たり前だ」
「私などに、こんなにたくさん……」
 と、無欲な顔をしていじらしく言ってみれば、ジャヴが師弟愛の眼差しで熱く語ってくれた。
「君以上に、花がふさわしい人がいるものか」
 うむ、花術師ですもんね。
「ですが、いつも頼ってばかりで…」
「そのために、私はいるのだから」
 ……ジャヴ、すごく嬉しそうですね。師弟愛がまばゆいです。いえ、私から仕向けたようなものですが。
「好きなだけ買いなさい。ああ、いっそすべて屋敷に運ばせたほうが早いか」
 と懐事情にいっさい頓着する必要のない優雅な師が、大盤振る舞いの発言を落とした。
 その台詞、一度でいいから言ってみたい。店の商品をすべて屋敷に運んでくれ、と。無理だが。むなしい。
 自分の切実に逼迫した生活事情を振り返って、哀愁を募らせたときだった。
 店主の女性が、やけに感激の目をして、リスカとジャヴを見た。
「——素敵だわ!! なんて奥様思いの旦那様なの!!」
「はい?」
「なに?」
「これだけの花を全部買い占めて『君以上に花がふさわしい人などいない』だなんて!! 見たところ、これは身分差の恋!?」
「はい?」
「なに?」
「慎ましやかな奥様のために、旦那様は花を贈ろうと!…………あら? 奥様じゃなくてこちらの方も男性……?……ま、まあ、そういうことも世の中には……、愛! 愛があればいいのよ!」
「……はい?」
「……なに?」
「うちの旦那もこのくらいの男ぶりを発揮してくれれば、私だってかわいげのひとつやふたつ、ねえ!」
 唖然とするリスカとジャヴを置き去りにして、店主は恐ろしく方向がずれた誤解の発言を次々と落としてくれた。
 あの、私たち夫婦ではなく、というか今は性別転換しているために男の姿で、いや、確かに身分差といいますか、位の違いは歴然なんですが、いやいやしかし、『花術師だから』という前提の上「ふさわしい」と言われただけでして、いやいやいや、その、とリスカはじわじわだらだら、冷や汗をかいた。
 だが、反論を口に出すのはやめておいた。
 なに、この花々を全部手に入れられるのなら、多少のことなど目をつぶる。
 たとえ、男同士の身分差の恋というとんでもない誤解であっても。……決して、花々のなかに、イベリー同様、酒に使えるものが混ざっているとわかったことが理由では、そんなそんな。不埒な思惑など一切なし。絶対に。
 ちらりとジャヴをうかがうと、「君、まさか……?」と濃密になにかを疑うような目で見られたため、とりあえずリスカは愛想良く笑っておいた。
 いい天気ですね、師よ。




●(明けの鳥)……リスカの夜明け。
※これは、書籍分の内容をお読みでしたら、大丈夫かと思います。シリアス。


 大通りの庭園。
 ティーナと伯爵がいた。二人は、つん、と互いにそっぽを向いている。
 駄目です、仲直りをして。そう言って無理やり二人の手を握らせる。すると、二人は気難しげな顔に、淡く照れをにじませ、それから恐る恐るというように視線を合わせた。安堵をたたえ、恥ずかしげに微笑する。
 子どものように繋がれた二人の手。険が抜け落ちた二人の表情は、優しく、初々しい。
 こうして見ると、すごくお似合いの二人ではないだろうか。だが伯爵、その不自然な鬘と派手な衣服はどうかと思いますよ。ま、まあ、これからはティーナがなんとかしてくれるだろう。
 そう、これからは、きっと。
 二人がリスカに笑いかける。リスカも微笑を返そうとして——気づく。
 二人の姿が、まるで紙のようにぺらぺらとしていた。薄い、一枚の紙。波打つように、ぺらぺらと。
 ぞっとした瞬間、二人の姿が、燃え上がった。
 炎を吹き上げ、燃えていく。
 ぎゃああああ。
 ぎゃああああ。
 ぎゃあああ。ぎゃあああ。
 二人が叫ぶ。胸を引き裂くような、鋭い断末魔の叫び。
 リスかは両手で顔を覆った。指の隙間から見える、炎。違う、こんなこと、あるはずがない、嘘だ、違う、違う——!


 ——ぎゃあああ。
 ぎゃあああ。
 リスカは、飛び起きた。
 全身にびっしょり汗をかいている。顎の先から、汗がしたたり落ちた。涙のようにしたたり落ちた。
 荒く息をつきながら、呆然と周囲を見回す。変哲のない、見慣れた自室。薄暗い。外からは、ぎゃああ、ぎゃああ、と明けの鳥の鳴き声が聞こえた。明けの鳥は、死神の化身であるという。死した者の魂を食らい、天へと飛び立つのだとか。
 悪夢を見たようだ。
 そうだ、夢だ。夢を見たのだ。
 リスカは一度、胸をおさえた。突き破りそうな勢いで、どくどくと心臓がはねていた。
 せわしなく瞬きを繰り返す。
 夢を見た。
 リスカは両手で頭を抱えた。静寂に満ちた薄闇のなか、つぶやく。
「救いたかったのです、救いたかった」
 許してください。
 



●(魔術師であることの意味)……ジャヴとツァル。ほぼ台詞調。
※これは、サイトのほうをお読みでないと、人物がわかりにくいと思います。


「やあ、塔の貴石殿! 奇遇だね、君もリカルスカイ君に会いにきたの?」
「そう、弟子に会いにきた。おかしなことではないだろう?」
「うんうん、わかるよ貴石殿。リカルスカイ君はからかうと面白……いや、教育のしがいがあるからね!」
「身も蓋もないね、君。ところで——塔の貴石、という呼び方は、やめてくれないかな?」
「どうして? 似合っているのに」
「——ああ、なるほど、わかった。君は——私に、ひどく嫌悪を抱いているのだね」
「ばれたか」
「まあ、慣れているからね。君のような視線を浴びることは」
「だろうねえ。でも誤解をしないでくれないか。妬みや疎ましさだけではないのだよ、君も将来、リカルスカイ君を傷つける者だと私は考えている」
「へえ。友人思いなことだ。自分の姿を、彼女に重ねているのかね」
「君のそういう——悪意のない無垢な傲慢さが、嫌なのだよ」
 ジャヴはそこで、微笑んだ。
 美しく、柔らかに。
「まったく、同感だね」




●(りょうり!)……リスかとセフォー。

 いつもはセフォーが料理を作ってくれるのだが、たまには交代するのもいいだろう。
 そう思い、リスカはセフォーを休ませて、調理場に立った。
 久しぶりの料理のせいか、微妙に食材を切る手元が危うい。……特訓しよう。なにごとも修学あるのみ。
 などと、さりげなくずれた勉学欲に燃えていたときだ。
「いけません」
 と後ろから声をかけられた。驚き、振り向くと、セフォーが不満そうな顔でリスカの手元を見ている。
「切り方。大きすぎます。それでは煮込むとき、中まで浸透しない」
「は、はあ……」
「鍋」
「は」
「味、濃いです」
「はあ…」
「これは焼き過ぎ」
「………」
 セフォーが眉間にしわを寄せつつリスカから食材を取り上げ、すばやく手を加えていく。
 どうも見かねて、口を挟まずにはいられなくなったらしいが。
 なんというか、セフォー。
 すでに料理の達人ですね…




●(花)……リスカ。


 誰にも見せない。私が、花に、魔力をもって、術の配列を描くところ。
 美しさの、淵に沈む。


【終わり】





しまった、フェイを登場させずにいた。

ところで前に一度、memoに書いたかもですが。花術師本編が完結したら、番外系の話とはまた別に、スピンオフ的なものを書く予定です。「砂の使徒」が主人公の話です(こちらは、サブでリスカが登場する予定です)。恋愛的な師弟愛ものです。……といいつつも、まだ内容を細かには詰めていないので、変更があります。
これを書くのは、まだまだ先になりそうですが。
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