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接触編end

こんばんはー。深夜です。

花神遊戯伝 ひとひら恋せ、胡蝶の月

★昨日、花神遊戯伝の6巻見本が届いて、嬉しい。(画像はアマゾンさんにリンクです)
ある意味ターニングポイント的な巻かなあと思います。

★メールくださった方々、ありがとうございました。
こちらこそ読んでいただけまして感謝です。これからも頑張ります!


★華神・接触編4です。
(読んでくださる方は、折り畳んでる記事をクリックください。「華神ってなんぞや?」と思われました方は、6/8の記事をご確認ください)


★日常話。
まだキャップが編み上がりません。
キッチンマット2枚目にいく前に、このキャップ編みで夏が終わりそうな気がする…


★華神戯譚【秘密の接触編4】
 
 朝餉を終えたあとのこと。
「——見せてやらぬのか?」
「え? 見せるって……」
 すっかり私に懐いた椰真を背にはりつけつつ、食後のお茶を楽しんでいたとき、ぬまごえ様がちょっと不機嫌そうに言った。
 ぬまごえ様の視線は、私の髪に向けられている。
「ソレ。胡汀という男から贈られた髪飾りじゃろう」
「そ、そ、そうですけれど」
 やばい、二度も舌噛んだ。
 動揺する私をぬまごえ様がジト目で見る。
「あの……お父様。これ、似合ってるかなあ?」
 胡汀さんが贈ってきた髪飾りはなにせ国宝レベルの仕上がりだ。細工の美しさに、自分の容姿が思いっきり負けている気がしてならない。
「似合わん」
「えっ」
 ぬまごえ様は、そっぽを向いた。
 やっぱり!? やっぱり負けてる?
 落ち込んで、髪飾りを外そうとしたら、椰真がぱたぱたと羽根を動かした。
「知夏、知夏。似合う」
「椰真! 椰真ちゃん……!」
 椰真の株が一気に上がった。この子、なんて空気を読めるんだ。
「……色気付きおって。人間の男との婚儀など、わしが生きてるうちは認めぬ」
 ぬまごえ様、もしかして私が嫁に行くかもしれないと想像して意地悪を言ったのか。
 っていうか、ぬまごえ様はたぶん不老なわけで、そうするといつまでも私は結婚できない?
 拗ねてるぬまごえ様を見ているうち、心がさらさらと優しい気持ちになった。
「お父様! 仮にいつか私が誰かと結婚しても、絶対お父様と同居しますから!」
「阿呆!」
 え、即座に罵られた。
 


 怒りつつもぬまごえ様は、なぜか少しだけ機嫌をよくしたらしい。
 気前よく外出許可をくれたので、椰真とともに胡汀さんの屋敷を目指す。
 何度もプレゼント交換しているのに、胡汀さんと顔を合わせたことはない。
 たぶん私の人間嫌いを察して、プレゼントを届ける時間になると、わざと外出してくれているんだと思う。
「でも、一度くらいはちゃんと言葉でお礼を伝えないと」
 そんなわけで、マイ飛行機と化しつつある椰真に運んでもらったんだ。
「……でも! やっぱり近づけない! 足が動かない!」
 いつもと違う時間帯に来たから、きっと胡汀さんは屋敷にいるだろう。
 私は屋敷の近くに立っている樹木の影からそっと様子をうかがった。
「うー、どうしよう。行けないよー、人間怖いよー」
「くけ」
 私は木陰でじたばたし、頭を抱えた。
 だって、なにを言えばいいのか! いや、もちろんお礼の言葉に決まってるんだけれど、あーもう、どうしよう!
「だめだー、だめだー、私って意気地なし」
 膝を抱えて座り、地面の雑草を寂しく抜いていたとき。
「知夏。胡汀がこっちにきた」
「え!?」
 椰真の発言に飛び上がり、慌てて樹木の幹にはり付く。椰真が私の肩から離れ、一番低い位置の枝に腰掛けた。
 そのあいだに、さくさくと足音が確かに近づいてくる。
 嘘、嘘っ。
 足音は、私が隠れている樹木の向こう側でとまった。うわあああ、私が反対側にいること、バレているんだよね!?
「けけっ、胡汀、ここに知夏がいるぞ」
 なに伝えちゃってんの椰真ちゃん!?
 胡汀さんがこっちを覗き込もうとしたのに気づき、私は急いで逆側にちょっと逃げた。
「……」
「……」
 怖いよー!! 生身の人間がこんな近くにいるよー!!
「けき。知夏が怯えている。人間の男が恐ろしいと」
 だから椰真ちゃんてば、なに通訳みたいなことしてんのー!
 樹木の向こうで、胡汀さんが困っている……感じがした。
「だが、知夏はこれでも頑張った。おまえに助けてもらった礼を述べに来たぞ」
「……礼?」
 い、今だ!
「……あの、罠から助けてくださって、ありがとうございました」
 言えたー!!
 やった私、これでもう帰れる!
 そう思って心から安堵したとき、椰真ちゃんてば、余計なことを言った。
「胡汀が贈った髪飾り、知夏、似合っているぞ。けけ」
 椰真ちゃあああん!!
 ほんとこの子マジ怖い!
「……知夏、というのか?」
 ふと胡汀さんから声をかけられ、私は固まった。
 極力怖がらせないようにっていう思いが伝わる、優しい声音だった。
「怪我は、治ったか?」
 硬直の溶けた私は、大きく何度も頷いた。声に出さなかったけれど、たぶん気配で伝わった……と信じたい。
「腕輪は?」
「……え?」
「腕輪のほうは、気に入らなかったか?」
「あ……、いえ、かわいい、です」
「そうか」
 胡汀さんが笑ったのがわかった。
「あの……隼鉄、ほんとにお好きですか?」
「ああ」
 楽しげな声。ちょっとどきどきする。
 胡汀さんがそっと動く気配を感じたので、私はまた、慌てて反対側に逃げた。
「……」
「……」
「……顔を見てはならないのか?」
 ど、どうする私! かなり失礼な真似してる。
「えっと、結婚する人以外に、顔を見せてはだめで……」
 私の嘘つき! 詐欺師!
 ごめんなさい胡汀さん……っていうか今、笑った? 嘘だとバレてる!?
 罠にかかったときに顔を見られているんだから、今更な話かも。
「では、次は扇を贈ろうか? それで顔を隠せば、この木は必要なくなるだろう?」
 樹木の裏側で、胡汀さんが言った。なんだかこそばゆくなるような優しい声音で、困ってしまう。
 顔を見せるのが嫌なんじゃなくて、男性と向かい合うのが怖いんだよ。
 でも胡汀さんは誠実そうだし、暴言を吐いたり乱暴な真似もしない……ように思える。
 樹木の幹にしがみついて色々と考えていたら、胡汀さんが動く気配を感じた。
 私は警戒し、いつでも逃げ出せるよう息をひそめた。
「……?」
 あれ? もしかして、樹木を背にして座った?
 しばらく様子をうかがうも、彼は物音ひとつ立てない。まさか、帰ったとか。
 どうしよー……。
 悩んだ末、そっと覗いてみることにした。
 ……胡汀さん、座ってる。なんだか、リラックスしている感じ?
「あの……」
 呼びかけてみたけど、返事がない。私の肩にはりついていた椰真がふよふよと飛び、彼の正面に回った。
「けけ、寝てる」
「本当?」
 思い切って、樹木の後ろから出てみる。そうっと彼の横に行き、表情をうかがう。
 本当に目を閉じて、うとうとしていた。
 木漏れ日が光のカーテンみたいに差し込んでいて、心地よさに眠くなるのはわかるけれど。
 胡汀さん、こんな顔だったのかあ。
 思わず距離を縮め、見つめてしまった。
 男の人なのに随分きれいな顔立ちだ。というか、かなり格好いい人だとわかって、衝撃。
 片方の目尻に、不思議な刺青がさしてある。髪の色も珍しくてちょっとミステリアスな雰囲気があった。
 もしかして胡汀さんは神巫なのか。
 違うか。鉄狩り師だって話だもんね。
「……本当に、助けてくれてありがとうございました。髪飾りとかも、かわいいです。でも胡汀さんは、結構負けず嫌いだと思います」
 起こさないよう小声で、最後のお礼を伝える。
「贈り物のやりとり、楽しかったですが、胡汀さんは人間の世で生きる人です。だからこれでもう、たぶん会うことはないと思いますが……お元気で」
 私は人間の娘だけど、神様領域で暮らしている。これからは今まで以上に人間と遭遇しないよう注意して生きていく。
「さよなら、胡汀さん」
 最後に会う人間が優しい人でよかった。
 ほっとし、屈めていた腰を伸ばそうとしたときだった。
「あっ!?」
 胡汀さんが、ぱっと目を開け、私の腕を強く引っ張った。とっさに逃げられず、つんのめったところをふわりと抱きかかえられる。
 近距離で胡汀さんと見つめ合う形になり、心臓がはねた。
「……ああ、すまない。つかまえるつもりはなかったが、急に別れの言葉を告げられると、戸惑う——しかし顔を見てしまったが、どうすればいい?」
「!!!」
 て、撤回する……!
 この人、ただの優しい人じゃなーい!!
 ああぁ男の人、本当に嫌ー!! 嫌ー!!
 私は裏切られた気持ちになり、両手で思いきり胡汀さんを押しのけた。
「うわあああん椰真ちゃーん!」
「くけ」
 椰真ちゃんが、キリッとすばやく私を抱き上げる。
「待て、帰るな。悪かったから」
 私は胡汀さんの声を無視した。椰真ちゃんが私を抱え直し、ふっと宙に浮かぶ。
 もう絶対、ここに来ない!
 ばさっと羽音を立てて、椰真ちゃんが空を飛ぶ。
 人間って狡くてマジ最悪。
 それを確信しつつ、帰路を辿った。

 ★

 本当に、もう二度と関わるつもりなんかなかったのに。
 数日後、椰真が「胡汀から、詫びの品を預かった」と大層美しい金の簪を持って来た。
 私は唸った。国宝レベル再び。
 突き返そうか、それとも。
「くけ。反省している、と言っていたぞ」
 簪に結びつけられている白い花が、甘く香っていた。


・秘密の接触編/end.
(※これで接触編は終わり。そろそろ新刊発売日が近づいてきましたので、しばらく華神はお休みとなります。だんだんと華神の知夏も、本編の性格に近づいてきたでしょうか。胡汀のほうはたぶん八割増しの紳士っぷりになります。しかし、本編とは反対に、胡汀が積極的?)
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